「大有(第14卦)の大壮(第34卦)に之く」:繁栄から力の運用へ、バランスを失わず成果を伸ばす智慧

アイキャッチ画像

「大有(だいゆう)の大壮(だいそう)に之く」が示す現代の知恵

「大有」は“多くを有する”という意味を持ち、物心ともに豊かな状態を表します。一方「大壮」は“盛んな力”が満ちあふれる様子を指します。つまり、この卦は「豊かさを得た後、その力をどう正しく使いこなしていくか」というフェーズの移行を象徴しているのです。

現代のビジネスに置き換えるなら、成果や地位を手に入れた後にこそ問われる「影響力の使い方」、「リーダーとしての成熟」がテーマになります。自分の才能や資源を、力任せに押し通すのではなく、正しい方向へと制御し活かしていくこと。これが「大有の大壮に之く」が伝える、次なる成長の鍵です。

仕事では、プロジェクトの成功後や昇進後「この後どうする?」というタイミングで活用すべき智慧。恋愛では、お互いに気持ちが通じ合っている今こそ、関係の維持と成長のためにどう接するかが問われます。資産形成の観点でも、資産が増えた後にこそ必要な“守り”と“攻め”のバランスを教えてくれる卦です。

この卦は「すでに成果を得ているからこそ、次のステージでは力の使い方を磨こう」というメッセージ。現代の私たちにとっては、リーダーシップ、感情のコントロール、戦略的判断力といったテーマで活かすことができます。


キーワード解説

統御 ― 力を持つ者は冷静さと配慮が試される

「大有」から「大壮」へ至る道は、単なるパワーの拡張ではありません。手にした成果やリソースをどう扱うか、自分をどうコントロールするかが大切な時期に入ります。過信や独善に陥らず、周囲との関係性や場の空気を読みながら進む力。これはリーダーであっても、パートナーシップにおいても、資産管理でも同様です。力を制する者こそ、自分自身を制する術を知っているという教えです。

謙信 ― 強さは信頼と謙虚さのバランスで育つ

「大壮」は“力の盛り”を表すものの、易経では過ぎたる力には注意を促します。だからこそ、大いなる成功を手にした後には「謙虚さ」と「信頼」が不可欠です。仕事の成功に酔うことなく、周囲の声に耳を傾け、仲間の信頼を積み重ねることが次の安定へつながります。恋愛関係では、愛されることに甘えず、相手へのリスペクトと感謝を忘れない姿勢が絆を育てる鍵です。

節度 ― 豊かさと勢いを長期的成果へ変える鍵

何事も、勢いのままに突き進めば長続きしません。節度は、勢いを“持続可能な成果”へと変換するためのフィルターです。投資でも同じで、収益が伸びたときほど冷静に利益確定の判断を下す必要があります。仕事でも、勢いのある提案や実行力に加えて、引くべきタイミングや聞く姿勢が重要です。節度は「自己抑制」ではなく「戦略的にチャンスを最大化する」ための知恵なのです。


人生への応用

意思決定とリーダーシップ

ある会社の中堅女性マネージャーがいます。彼女は数年の努力を経て、ついに部長職に昇進しました。社内からの期待も大きく、部門の売上は右肩上がり。外から見れば「大有」――つまり、成果をしっかり手にしている状態でした。しかし、ここで彼女は悩み始めます。

「この先、私はどんなリーダーになればいいのか?」
「成果を出すことはできた。でも、みんなが本当に付いてきてくれているだろうか?」

ここで必要になるのが「大有の大壮に之く」の智慧です。

「大有」が示すのは“持つ者の責任と可能性”です。能力・信頼・資源――すべてを有しているがゆえに、その先に問われるのは“どう使うか”。そして「大壮」に進むとき、それは“力のピーク”を迎える局面でもあります。ただし、この“力”には二面性があります。強さはリーダーシップにもなるが、独善にもなり得る。だからこそ、“力の運用”が極めて重要なのです。

リーダーに必要なのは、単に強くあることではありません。部下を圧倒する力ではなく、部下を育てる力、信頼される力、必要なときに一歩引ける勇気。まさに「統御」や「節度」のキーワードがここに生きてきます。

この卦が教える意思決定とは、勢い任せのトップダウンではありません。自らの思いを持ちながらも、チーム全体の方向性を見定め、メンバーの成長を促す「大きな配慮」のある判断です。

たとえば彼女は、昇進直後にメンバーを引っ張ることに必死でした。会議でも、自分が中心となって議論を進め「結果を出すこと」に集中していたのです。しかし、ある日ふと気づきました。「私が引っ張るばかりで、みんなの成長を止めていないだろうか?」と。

その日から、彼女は会議の進行をあえて他のリーダー候補に任せるようにしました。自分は補佐役に回り、必要なときだけフォローする。最初は不安そうだった部下も、徐々に自信を持ち、プロジェクトに自らの視点を加えるようになります。すると、チーム全体の士気が高まり、以前よりも創造的でスピード感のある仕事が回るようになったのです。

これはまさに「力を持つ者が、その力をいかに調整するか」という問いに、ひとつの答えを出した瞬間でした。リーダーは、常に前に立ち続けるのではなく「立つべきとき」と「任せるとき」のバランスを見極める存在。これこそ「大有」から「大壮」に至るプロセスなのです。

また、意思決定においてもこの卦の示唆は深いものがあります。リーダーの判断にはスピードが求められますが、同時に「周囲への影響力」や「タイミング」も問われます。力に満ちているからといって、常に全力で押し通してよいわけではありません。「今は前に出るときか、それとも一歩引くべきか?」という問いを持ち、内省することが大切です。

結果として、この女性マネージャーのチームは全社でもっとも離職率が低く、かつ成果を上げる部門へと進化しました。彼女が選んだのは「押す力」ではなく「支える力」。それが周囲の信頼を呼び、長期的な成果につながったのです。

「大有の大壮に之く」は、まさに現代のリーダーが直面する問いに応える卦。持てる者が力を振りかざすのではなく、どう育て、どう制御するか。そこに、次のステージへの扉があるのです。

キャリアアップ・転職・独立

「今の仕事には感謝している。でも、このままでいいのだろうか?」
「もっと自分らしい働き方をしたいけれど、転職や独立に踏み出すのが怖い」

そうした揺らぎを感じている人にとって「大有の大壮に之く」は、実に示唆に富んだ卦です。

この卦が語りかけてくるのは「あなたはすでに多くを持っている。次は、それをどう使い、どう進むかを選びなさい」というメッセージです。

「大有」は、目に見える成果だけでなく、知識・人脈・経験といった“見えない資産”をも含めた「豊かさ」の象徴です。努力を積み重ねてきた人ならば、今たとえ不安を感じていても、すでに確かな土台を築いています。そして「大壮」は、その持てる力をどう運用し、どんなタイミングで次の行動に移すかという“力の成熟”を問うフェーズです。

たとえば、ある30代の女性がいました。これまで順調にキャリアを重ね、営業マネージャーとして高い実績を上げていました。しかし、家庭の事情と働き方のミスマッチにより、徐々に心身のバランスが崩れてきます。そんな彼女が思い至ったのが「もっと自分の裁量で働ける環境に移る」という選択肢。そこで、彼女は数ヶ月間、時間をかけて情報収集し、専門性を生かした業務委託の仕事をスタートさせました。

このとき、彼女が参考にしたのがまさに「大有の大壮に之く」の発想です。

「これまでの成功体験や人間関係は、自分の大切な資産。次に進むには、それを無駄にしないかたちで活かしたい」

彼女は「全てをリセットする転職」ではなく「今ある強みを土台に変化させるキャリア設計」を選んだのです。これがまさに「大壮」の“力を正しく運用する”という姿勢。

また「独立」の場面でもこの卦の教えは深く響きます。勢いだけで起業に踏み切るのではなく、自分の持てる力・ネットワーク・実績をどう戦略的に配分するか、が問われるのです。勢いは必要ですが、勢い任せでは続かない。それはまさに「大有」的な“豊かさ”を「大壮」的な“節度”と“成熟”で支える考え方。

キャリアアップの文脈でいえば、この卦は「昇進したあとの慎重な舵取り」を示唆しています。新たなポジションでは、能力だけでなく、人間関係の構築や戦略眼、そして「引き際」も大切になります。成果を出しながら、次の挑戦の準備を並行して進める。そのような“二刀流”的なバランス感覚が求められる時期なのです。

また「今はまだ動かない」という選択も「大有の大壮に之く」では尊重されます。力を蓄えている今は、下手に動かず、機が熟すのを見極めることもまた“力の運用”なのです。今の環境でできることを最大化しながら、外の世界に触れる準備をしておく。そうした「静かな戦略」が、将来の大きな飛躍を支えます。

この卦が教えてくれるのは「飛ぶ前に、翼を整える」ことの重要性です。すでに多くを持っているあなたは、無理をして何かを“足そう”とするのではなく“活かす”視点を持つことで、新しい道が自然と開けていきます。

キャリアは、一直線に伸びるものではなく、曲がりくねりながら、その人らしさを育てていく道。今の場所で咲くか、次の場所へ根を張るか――。その判断を下すとき「大有の大壮に之く」がくれるのは「今の自分にはすでに価値がある」という確かな自己信頼。そして「力の使い方」こそが次のキャリアを創るという、確固たる道しるべなのです。

恋愛・パートナーシップ

恋愛やパートナーシップにおいて「大有の大壮に之く」は、非常に成熟した段階での“愛の扱い方”を教えてくれる卦です。それは、出会いや駆け引きといった初期フェーズを越えた「関係をどう深めていくか」、「愛という力をどう育て、運用していくか」というフェーズの話です。

たとえば、あるカップルは付き合って3年、同棲も順調。互いの性格も理解し合い、生活リズムも合っていて、まさに「大有」的な状態――つまり“豊かに満たされた関係”を築いていました。しかし、ある時から小さなすれ違いが増え始めます。理由は些細なこと。仕事の忙しさによるすれ違いや、将来への考え方のズレなど。しかし問題はそこではなく「相手に期待しすぎてしまう」、「言葉にしなくてもわかってくれるはず」といった“力の誤った使い方”にありました。

このとき必要だったのが「大有の大壮に之く」の視点です。
“愛されている”という安心感“関係が安定している”という豊かさ。それに胡坐をかくのではなく「だからこそ、今こそ関係を育て直す力が必要」なのだということ。

「大有」は、愛される自分・与えられる幸運を意味します。しかし「大壮」に進んだ瞬間、求められるのは“自らが愛を動かす存在になること”。受け身ではなく、意志を持って愛を運用するフェーズなのです。

たとえば前述のカップルの女性は、最初こそ彼に対して「もっと気遣ってほしい」、「前みたいに優しくしてほしい」と不満を抱えていましたが、ある日ふと、自分の態度を振り返りました。「相手に求めるばかりで、自分は何かしていただろうか」と。そこから彼女は意識的に、日々の挨拶や感謝の言葉、帰宅後の気遣いを増やしました。すると、彼の態度も次第に柔らかくなり、二人の距離がまた近づいていったのです。

このように、恋愛において「大壮」とは、“自分の中の愛のエネルギー”を意識的に使うことです。ただ与える、ただ受け取るではなく、タイミング・言葉・態度のひとつひとつを意志をもって選び、信頼と絆を築く。これは、関係を長続きさせる成熟した愛の在り方です。

また、恋愛初期においても、この卦は重要な示唆を与えてくれます。たとえばマッチングアプリや紹介などで、素敵な出会いのチャンスを得たとき。最初の高揚感に任せて一気に距離を詰めすぎると、相手に“圧”を与えてしまう場合もあるでしょう。「大壮」は、力のピークを意味しますが、だからこそ、その力を“コントロールする成熟さ”が問われます。熱量があるからこそ、引くときは引く、押すときは押す。恋愛においても「節度」や「謙信」のバランス感覚が、非常に重要なのです。

さらに、この卦は“理想のパートナーを引き寄せる”ための心得としても活用できます。「自分が何を持っているか」を知ること「その魅力をどう表現するか」を理解すること。これは恋愛において、自信と魅力を育む土台になります。つまり「大有」は、“あなたはすでに愛される存在だ”という承認であり「大壮」は、“それを踏まえて、どう動くか”という行動指針なのです。

結婚や同棲といった“二人の将来を共に考える”フェーズでも、この卦は有効です。勢いだけで一緒になるのではなく、生活設計・家族観・キャリアの支え合い方など“力と力”をどう調和させるかが問われます。たとえば、互いがキャリア志向であればこそ「応援し合える関係をどう築くか」、「育児や家事の役割分担をどう整えるか」といった現実的な対話が必要になってきます。

「大有の大壮に之く」が恋愛やパートナーシップに教えてくれるのは、こうした“成熟した愛”の在り方です。豊かさに甘えず、力を誤用せず、自分の意志で愛を育てる。そして、相手の人生にとって“支えになれる存在”を目指す。そんな姿勢が、関係性の本当の強さを育ててくれるのです。

資産形成・投資戦略

「資産を増やしたい」、「お金の不安を減らしたい」と考えるのは、ごく自然なことです。しかし、多くの人が悩むのは「どうすれば確実に増やせるのか?」、「いつ、どんな判断を下せばよいのか?」という“戦略の部分”です。

この問いに対して「大有の大壮に之く」は非常に具体的かつ現実的な示唆を与えてくれます。

まず「大有」は、“すでに資産がある”状態を示します。ここでいう資産とは、必ずしも預金残高や株式の評価額だけではありません。安定した収入源、将来性のあるスキル、人的ネットワーク、情報感度など、目には見えにくいが確かな価値を持つ「資産」も含まれます。

つまりこの卦は「あなたには、すでに何かしらの『資産の芽』がある」と伝えているのです。
問題は、その“芽”をどのように育て、活用していくか。そこで次に出てくるのが「大壮」です。これは“力が満ちる”象意を持つ一方“使い方を誤れば破綻を招く”という警告も含んでいます。

資産形成の世界でも「勢い」や「熱狂」に流される場面は多くあります。たとえばSNSで流れてきた“億り人”の成功談に感化されて、根拠の薄い仮想通貨に全額投資してしまう。あるいは「今が買い時」と煽られた株式を、企業の中身を見ずに大量購入してしまう――これらはすべて「力の誤った使い方」にあたります。

「大有の大壮に之く」が教えてくれるのは「力があるときこそ慎重に」、「成功が見えたときこそ冷静に」という戦略思考です。持てる資産をどう管理し、いつ、どこに投じるか――それを決めるのは“焦らない心”と“見極める目”なのです。

たとえば、ある女性は30代半ばで年収も安定し、貯金も500万円を超えた段階で資産運用を本格的に始めようと考えました。周囲の友人たちがつみたてNISAやiDeCoを始めていたのを見て「私もやらなきゃ」と焦りを感じていたといいます。しかし、ここで彼女が取ったのは“一旦立ち止まって自分に合う投資方針を見つける”という選択でした。

FP(ファイナンシャルプランナー)に相談し、自身のライフプラン(結婚・出産・住宅購入・老後資金など)をベースにシミュレーションを立てた結果、すぐに利益が出る投資よりも「10年後に安定した果実を生む」戦略が適していると判断。彼女は少額から積立型の商品を選びつつ、リスク許容度に応じたETF投資へと慎重にシフトしました。

これはまさに「大有(資産の蓄積)」を「大壮(戦略的に活用)」へと転換した典型例です。力があるからといって、すぐにすべてを動かす必要はないのです。むしろ、今“使わない”という判断も立派な戦略になります。

また、資産形成には「守る力」も必要です。成功すればするほど、税金や保険、相続といった新たなテーマが現れてきます。大きな財を手にしたからこそ、リスク管理や分散の視点が重要になってくる――それが「大有の大壮に之く」の“成熟した資産戦略”なのです。

もう一つ、この卦から得られる重要な視点は「情報との付き合い方」です。現代は“情報過多”の時代。投資や資産形成についても「あれもこれもやるべき」と思わされる状況が日々生まれています。しかし、大壮はこう言います。「力を広げすぎてはいけない。的を絞れ」。つまり、“自分に必要な情報だけを選び取る力”が求められているのです。

資産形成は短期決戦ではなく、人生全体を通した長距離レース。そのレースにおいて「すでに持っている力をどう使い、どのように成長させるか」が鍵となります。「大有の大壮に之く」は、今の資産を“将来の自由”に変えるための、賢く・戦略的な行動指針を私たちに示してくれるのです。

ワークライフバランスとメンタルマネジメント

“仕事も大切、でも私生活も犠牲にしたくない”
“成果を出したい気持ちはあるけれど、疲れが取れず前に進めない”

そんなジレンマに悩むビジネスパーソンは、今の時代、特に女性の中に多く存在します。キャリアを築くこと、収入を安定させること、自分の時間や人間関係を守ること。そのすべてをバランスよく整えるには、意志と戦略の両方が必要です。

「大有の大壮に之く」は、そんな複雑な状況にこそ活かされる智慧です。

まず「大有」は、“すでに多くを持っている状態”を象徴しています。これは物質的な豊かさだけでなく、仕事での役割、周囲からの信頼、家庭での存在感、自分の成長実感など、あらゆる「成果や資産」を含みます。一方「大壮」は、“力が盛んな状態”であり、内にエネルギーが満ちていることを示すと同時に“コントロール”が必要であることも教えてくれます。

つまりこの卦は「たくさんのことを同時に抱え、やる気や能力にも満ちているあなたが、どこまでアクセルを踏むか、どこでブレーキをかけるか」を問うているのです。

たとえば、ある女性会社員は、育児をしながらマネジメント業務も担い、さらには副業でスキルアップにも挑戦していました。毎日がやることだらけで、達成感もある一方で、常にどこか焦りと疲労感を抱えていたといいます。

彼女はある時、自分が“何かを得るたびに、何かを失っている”ような感覚に陥ります。健康、睡眠、家族との時間――そうした「目に見えない大切なもの」が後回しになっていたのです。

ここで彼女が立ち止まって考えたのが「力をどう使うか」という問いでした。

「私は頑張れる。でも、全部を一気に頑張っても、続かない」

そこから彼女は「今月は“仕事の成果”に集中し、来月は“家庭時間”を重視する」といった“テーマ別マネジメント”を始めました。完璧を目指すのではなく、月ごと・週ごとに“力の使い先”を定めることで、心に余白が生まれたのです。

このように「大壮」の本質は“全力でやること”ではありません。“全力をどこに注ぐかを選ぶこと”にあります。ワークライフバランスとは、単なる時間配分ではなく、“意図的な優先順位の設計”であるという視点が必要なのです。

また、メンタルマネジメントの観点からも、この卦は深い示唆を与えてくれます。力が満ちているときほど、人は「自分だけでなんとかしよう」としてしまいがちです。しかし、そういうときこそ“人に頼る”という選択肢を忘れてはいけません。

「大有」には“共にある”という意味も含まれます。つまり、すでにあなたのまわりには、助けてくれる人、支えてくれる人、分かち合える存在がいるということ。それに気づき、自分のキャパを超えそうなときは“誰かに託す力”を持つことも「成熟した自立」です。

「大有の大壮に之く」は、まさに“持ちすぎた人”に訪れる課題と、その乗り越え方を示しています。すべてを完璧に回そうとせず、自分の力を賢く配分し、時には立ち止まり、時には頼る。そうやって自分のエネルギーを“戦略的にマネジメント”することこそが、持続可能な働き方・生き方への鍵なのです。


象意と本質的なメッセージ

「大有の大壮に之く」が伝える根本的なメッセージは、シンプルに言えば「持てる者の覚悟」と「力の使い方の成熟」です。

まず「大有」は、“多くを持つ”という象意を持ちますが、それは単なる物質的な豊かさにとどまりません。社会的な地位、経験、信頼、人とのつながり、才能、自信――あらゆる面において“充実した状態”を表しています。すでに土台はあり、資源も整っている、いわば“可能性の王者”とも言える状態です。

そして「大壮」へと至る流れは、そこで得た豊かさをどう活用するか、という問いかけです。ただ所有するだけでは意味がない。力を持った者には、その力を適切に使う責任がある――それが「大壮」の核心です。

このふたつの卦を組み合わせることで「影響力を持った今こそ、強さではなく賢さが問われる」というメッセージが浮かび上がります。

現代の多様なビジネスパーソンにとって、これは非常に現実的な課題です。

たとえば、ある程度のキャリアを築いた女性リーダーがいるとします。部下も育ち、会社からの信頼も厚く、外部の仕事にも声がかかるようになった。ここで彼女が問われるのは「どれだけ多くの仕事をこなすか」ではなく「どこに時間と力を注ぎ、何を切り捨てるか」。この選択が、その後のキャリアの深度と広がりを決定づけます。

あるいは、資産を築き上げた人にとっても同じです。「次にどこへ投資すべきか」、「どんなリスクに備えるか」という意思決定が、単なる利益追求ではなく“将来の自由と安定”という長期的な視野を持ったものになるかどうかが問われます。

恋愛でも、すでに築かれた信頼関係をどう育て続けるか、パートナーシップの中で自分がどんな在り方であるべきかが焦点となります。力を振りかざすのではなく、寄り添い、支え合うための力の使い方が求められるのです。

「大有の大壮に之く」は、こうした“転換点”にある人へのエールです。成功の直後、上昇期の最中、充実感の真っ只中――そうしたタイミングでこそ、人は方向を見失いやすくなります。「まだ上を目指さねば」、「もっと広げなければ」と思いがちですが、実はそこに“落とし穴”がある。だからこそ、この卦は「今こそ、自分の“力の扱い方”を点検しよう」と呼びかけてくるのです。

そして、この卦が私たちに訴えかけるのは「真の成功とは、持つことではなく、活かし続けること」であるという本質的な視点です。いかに多くを得ても、それを支える精神性・判断力・人間関係がなければ、長続きはしません。逆にいえば、内面の成長と共に力を使えるようになれば、人生はより深く、豊かに、安定していくのです。

あなたはすでに、多くを持っている。今問われているのは、それをどう育て、どう差し出し、どう未来へつなぐか――
「大有の大壮に之く」は、そんなあなたにふさわしい“力の成熟”を促すメッセージなのです。


今日の行動ヒント:すぐに実践できる5つのアクション

  1. 今日、ひとつ「手放すこと」を決めてみる
    やるべきことが多すぎる時期は、何かを加えるより、まず減らすことが重要です。「やらなければと思っていたけど、今じゃなくてもいいかもしれない」そんなタスクを一つ見つけて、思い切って“延期”か“削除”してみましょう。余白が生まれることで、今本当に力を注ぐべきものが見えてきます。
  2. 人に任せる・頼るを“意識して”実行する
    「自分がやった方が早い」と思ってしまいがちな場面で、あえて誰かに任せてみましょう。それは単なる「手抜き」ではなく、“力を分け合うリーダーシップ”の実践です。信頼して任せることは、自分の器を広げる第一歩になります。
  3. 今の自分が「持っているもの」を3つ書き出してみる
    経験、人脈、安定した収入、家族、知識、技術、健康など…あなたが今すでに“持っている資産”を言語化してみましょう。これに気づくことで、「まだ足りない」と焦るのではなく、「どう活かすか」に視点をシフトできます。
  4. 力を使う“場”をひとつ意図的に選ぶ
    今週、最も集中したいテーマを一つだけ決めましょう。仕事?家族?自己研鑽?副業?どれも大切ですが、すべてに全力投球するのは非効率です。エネルギーの“投下先”を明確にすることで、質もパフォーマンスも上がっていきます。
  5. 「ありがとう」を誰かに直接伝えてみる
    力を持つ人ほど、感謝の言葉を後回しにしがちです。けれど、感謝の言葉は“信頼という資産”を育てる最良のツール。職場でも家庭でも、パートナーや友人でも、今日はぜひ一人に“丁寧なありがとう”を届けてみてください。

まとめ

「大有の大壮に之く」が伝えるメッセージは、豊かさを手にした者こそ、次に“力の運用”という高度な課題に向き合う必要があるということです。この卦は、単に「持っている人は強い」という話ではありません。むしろ「持っているからこそ、その先の選択や振る舞いに責任がある」と語りかけてきます。あなたが今感じている充実感も、プレッシャーも、あるいは焦りや疲れさえも、それは“力が満ちている状態”だからこそ生まれるもの。そしてそれは、決して悪いことではありません。

成功とは、単なる結果ではなく、プロセスの中で育つ“成熟”のことです。リーダーシップにおいては、自分の強さを押し出すのではなく、人を育て、信頼を広げるというリーダーとしての質的転換を。キャリアにおいては、外的なステップアップだけでなく、自分らしさと調和した働き方を。恋愛では、受け取る愛から与える愛へのフェーズチェンジを。資産形成においては、勢いよりも戦略と安定を。そして、ライフバランスや心のケアにおいては、完璧を求めず、力を“どこに使うか”を選ぶ意志を。

この記事を通じてお伝えしたかったのは、あなた自身がすでに「多くを持っている」ということ。そして、その持てるものを、焦らず、正しく、やさしく使っていくことが、次のステージへの扉になるということです。ビジネス、恋愛、資産形成、ライフスタイル――すべてにおいて、「力」を持ったあなたがその力を誇らず、恐れず、丁寧に活かしていく。その在り方が、まさに“成熟した成功”のかたち。

「大有の大壮に之く」は、その先にある“安定的で調和のとれた未来”を、静かに、でも確かに照らしてくれる卦なのです。

どうか今日のあなたが、焦らず、自信をもって一歩を踏み出せますように。そして、あなたの“力”が、自分らしい人生と誰かの希望を支える光になりますように。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA