「大壮(第34卦)の臨(第19卦)に之く」:勢いを“使える力”に変え、信頼と成果を同時に育てる智慧

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「大壮(だいそう)の臨(りん)に之く」が示す現代の知恵

「大壮の臨に之く」が示しているのは、高まるエネルギーをどう扱うかという、非常に現実的で実践的なテーマです。「大壮」は、力が充実し、自信や勢いが最高潮に達しやすい状態を象徴します。仕事で成果が出始めたとき、周囲から期待され始めたとき、自分でも「今ならいける」と感じる瞬間。多くのビジネスパーソンが一度は経験するフェーズです。しかし、その力をただ押し出すだけでは、周囲との摩擦や反発を生みやすくなります。そこで次に現れるのが「臨」です。「臨」は「近づく」、「見守る」、「相手の立場に立って関わる」姿勢を表します。つまりこの流れは、自分の力を誇示する段階から、人や状況に寄り添いながら影響力を発揮する段階へ移行することを意味しています。

仕事の場面では、プレイヤーとしての実力を認められた後、チームや後輩を導く立場に立つときに、この智慧が大きく役立ちます。強く引っ張るだけでなく、相手の理解度や不安を感じ取りながら関わることで、結果として組織全体の成果が安定していきます。恋愛やパートナーシップでも同様です。自分の魅力や主張を前に出す段階から、相手の気持ちを受け止め、安心感を育てる関係へと進むことが、長く続く信頼につながります。また、資産形成の視点では、調子が良いときほど慎重さと俯瞰が求められることを示しています。勢いのある局面でこそ、環境やリスクを丁寧に観察し、持続可能な判断を重ねることが重要になります。

この卦は「今の自分には力がある」と感じている人にこそ、その力をどう使えば長期的な成功につながるのかを静かに問いかけています。自信と謙虚さを同時に持つこと。そのバランスこそが、現代を生きる多様なビジネスパーソンにとって、最も実用的な智慧だと言えるでしょう。


キーワード解説

節度 ― 強さを信頼に変えるためのブレーキ

「大壮」のエネルギーは、行動力や決断力として非常に頼もしいものです。しかし、そのまま前に出し続けると、知らず知らずのうちに周囲を置き去りにしてしまうことがあります。「臨」が示す節度とは、力を抑え込むことではなく、相手や状況に合わせて出力を調整する力です。仕事では、正論をそのままぶつけるよりも、相手の理解度や立場を考えた伝え方を選ぶことで、結果的に物事がスムーズに進みます。恋愛でも、自分の想いを押し付けるのではなく、相手が安心して受け取れる距離感を保つことで、関係は深まっていきます。節度を持つことは、自分の価値を下げる行為ではなく、むしろ信頼を積み上げるための重要な戦略なのです。

接近 ― 上からではなく同じ目線で関わる

「臨」には「近づく」という意味がありますが、それは支配や管理のための接近ではありません。相手を理解しようとする姿勢そのものを表しています。力を持つ側が一段下りて、相手の目線に立つことで、本音や課題が自然と見えてきます。マネジメントの場面では、指示を出す前に状況を聞き、感情や背景を理解しようとする姿勢が、チームの安心感につながります。恋愛や人間関係においても、相手を変えようとするより「どんな思いで今ここにいるのか」を知ろうとすることが、信頼関係を育てます。接近とは、距離を詰めることではなく、理解の深度を深める行為だと言えるでしょう。

成熟 ― 勢いの先にある安定を選ぶ

「大壮」の段階では、スピードや結果が評価されやすくなります。しかし「臨」に之くことで、テーマは「どれだけ続けられるか」、「どれだけ安定した成果を出せるか」へと移ります。成熟とは、派手さを抑えることではなく、長く信頼される状態を自ら選び取ることです。キャリアにおいても、短期的な成功より、再現性のある実績や人脈を築くことが次のステージにつながります。投資や資産形成でも、一時的な利益に振り回されず、自分のルールを守り続ける姿勢が結果を左右します。
成熟は時間がかかる分、人生全体の安定感を大きく高めてくれる力です。


人生への応用

意思決定とリーダーシップ

「大壮の臨に之く」が、意思決定とリーダーシップの場面で強く示しているのは“力を持った人ほど、どう振る舞うかが問われる” という現実です。この卦の流れは、単なる精神論ではなく、組織やチームを動かす立場に立ったときに直面しやすい葛藤を、非常に具体的に映し出しています。

仕事で一定の成果を上げ、発言力が増してくると、判断のスピードも求められるようになります。周囲から「決めてほしい」、「方向性を示してほしい」と期待される場面が増え、強い意思表示が評価されることも多くなります。この状態がまさに「大壮」です。自分の考えに自信があり、行動すれば結果が出る。その感覚自体は間違いではありません。むしろ、リーダーに必要な資質の一つです。

しかし、この段階で多くの人がつまずくのは「正しさ」と「伝わり方」を同一視してしまうことです。あるプロジェクトで、経験豊富な立場にいる女性が、全体の進行を早めるために明確な方針を打ち出したとします。その判断自体は合理的で、成果にもつながるものでした。それでも、チームの一部からは「話を聞いてもらえなかった」、「置いていかれた気がする」という声が生まれてしまいました。

ここで働くのが「臨」の智慧です。「臨」は、力を持つ側が一歩近づき、相手の状況や感情を観察する姿勢を重視します。決断そのものを弱めるのではなく、決断に至るプロセスを開くことが求められるのです。リーダーシップにおいて重要なのは「自分が正しいかどうか」よりも「この判断がどのように受け取られるか」を想像できるかどうかです。「臨」の姿勢を取り入れると、判断の前に小さな問いを挟むようになります。「今、現場では何が一番不安だろうか」、「この方針は、誰にとって負荷が大きいだろうか」。こうした問いを持つだけで、言葉の選び方や説明の順序が自然と変わります。

結果として、リーダーの判断は押し付けではなく“一緒に進むための合意”として受け取られやすくなります。これは優柔不断になることとは違います。むしろ、周囲の理解と納得を得ることで、決断後の実行力が高まり、修正や改善もスムーズに行えるようになります。

また「大壮の臨に之く」は、リーダー自身の内面にも重要な示唆を与えます。力があるときほど、人は無意識に孤立しやすくなります。「自分が引っ張らなければ」、「弱みを見せてはいけない」と感じるからです。しかし「臨」は、一人で背負わず、状況に身を置いて観察することを勧めます。

たとえば、会議で即断せずに「一度現場の声を整理してから決めたい」と伝えることは、決して弱さではありません。むしろ、その姿勢が周囲に安心感を与え「この人は私たちを見て判断してくれる」という信頼につながります。この信頼こそが、リーダーの影響力を長期的に支える土台になります。

「大壮」の勢いだけで進むリーダーは、短期的には成果を出しやすい反面、反発や疲弊を生みやすくなります。「臨」に之くことで、リーダーシップは「力で引っ張る形」から「人が自然とついてくる形」へと変化します。それは、声を荒げないことでも、決断を先延ばしにすることでもありません。人の動きを読む力を意思決定に組み込むという、極めて現実的な技術です。

現代の多様な職場では、価値観や背景が異なる人たちと協働する場面が増えています。その中で求められるのは、圧倒的な強さよりも、調整と観察を伴った判断力です。「大壮の臨に之く」は、強いリーダーになることと、信頼されるリーダーになることは両立できる、という事実を静かに教えてくれています。

キャリアアップ・転職・独立

「大壮の臨に之く」がキャリアの局面で示しているのは、勢いのある時期ほど、自分の立ち位置を冷静に見直す必要があるという、極めて現実的なメッセージです。この卦は「前に進む力があるからこそ、進み方を選べる」という段階に差しかかっている人に向けて語りかけています。

仕事を続けていると、ある時点で手応えを感じる瞬間が訪れます。評価が安定し、任される仕事の難易度も上がり、成果が数字や言葉として返ってくるようになる。その状態が「大壮」のエネルギーです。このフェーズでは、多くの人が「次に何を目指すべきか」、「このまま今の環境に留まるべきか」と考え始めます。昇進、転職、独立といった選択肢が現実味を帯びてくるのも、この時期です。

しかし、勢いがあるときほど、判断は外側の刺激に左右されやすくなります。周囲からの期待、他人の成功例、条件の良さそうなオファー。ある女性が、仕事で高い評価を得ていた時期に、より条件の良い転職話を持ちかけられました。報酬も役職も魅力的で、直感的には「今がチャンスだ」と感じたそうです。しかし一方で、今の職場で築いてきた信頼関係や、自分が果たしている役割を手放すことへの違和感もありました。

ここで働くのが「臨」の視点です。「臨」は、未来に飛びつく前に「今、自分はどこに立っているのか」を観察することを促します。転職や独立を否定するのではなく、その選択がどのような人間関係や責任の変化を伴うのかを丁寧に見極める姿勢が求められます。キャリアアップにおいて重要なのは、肩書きや条件の変化そのものよりも「自分がどの立場で、どんな影響を与える存在になりたいか」という視点です。「大壮」の力は、環境を変える勇気を与えてくれますが「臨」に之くことで、その勇気は衝動ではなく戦略へと変わります。

たとえば昇進を目指す場合でも「上に行くこと」だけが目的になると、仕事の意味を見失いやすくなります。一方で「臨」の視点を持つと「このポジションに立ったとき、自分は誰を支え、どんな安心感を提供できるか」という問いが生まれます。この問いを持ったまま昇進を選ぶ人は、役職が上がっても孤立しにくく、長く信頼される存在になっていきます。

転職についても同様です。勢いに任せて環境を変えるのではなく「自分がすでに持っている力は何か」、「それは新しい場所でどう活かされるのか」を観察することで、選択の質は大きく変わります。「臨」は、過去の経験を否定せず、積み上げたものを携えて次へ進む姿勢を後押しします。

独立や副業を考える場合、この卦のメッセージはさらに重要になります。「大壮」のエネルギーが強いと「今なら一人でもやれる」という感覚が生まれやすくなります。しかし「臨」に之くことで、視点は「誰と、どんな関係性を築きながら進むか」へと移ります。独立後に安定している人ほど、顧客や取引先、支えてくれる人との距離感を非常に大切にしています。それは偶然ではなく「臨」の姿勢を自然と実践している結果だと言えます。

キャリアの選択に正解はありません。ただ「勢いがあるからこそ、立ち止まって観る」というプロセスを挟むかどうかで、その後の安定感は大きく変わります。「大壮の臨に之く」は、行動する前に自分の足元と周囲を見渡すことで、選択がより自分らしいものになることを教えてくれています。

恋愛・パートナーシップ

「大壮の臨に之く」が恋愛やパートナーシップの場面で示しているのは、惹きつける力が高まったときこそ、関係の質が試されるという現実です。この卦は、恋愛における主導権や魅力が自分にあると感じやすい時期に、どのような姿勢で相手と向き合うべきかを、非常に具体的に教えてくれます。

仕事が充実し、自信がついてくると、不思議なことに恋愛面でも選択肢が増えることがあります。自分の意見をはっきり言えるようになり、相手に合わせすぎなくなることで、関係性が一気に動き出すこともあるでしょう。これが「大壮」の状態です。自分の軸が定まり「こうしたい」、「これは譲れない」と言える強さが生まれています。

ただし、この強さは使い方を誤ると、恋愛では摩擦になりやすい側面も持っています。ある女性は、仕事も順調で精神的にも自立しており、恋愛においても主導的な立場にありました。相手に求める条件も明確で、関係を進めるペースも自分で決めていました。一見すると理想的な状態ですが、相手からは「必要とされていない気がする」、「入り込む余地がない」と感じられてしまったのです。

ここで重要になるのが「臨」の姿勢です。「臨」は、力を持つ側が一歩近づき、相手の気持ちや立場を静かに観察することを促します。恋愛においては、強さを見せることと、心を開くことは別の行為であることを理解する必要があります。

恋愛がうまく続く人ほど、自分の意思をはっきり持ちながらも「相手がどう感じているか」に常に意識を向けています。たとえば、関係の進展についても「私はこう考えているけれど、あなたはどう感じている?」と問いかける余白を残します。この余白こそが「臨」が示す“近づき方”です。

「大壮」のエネルギーだけで進む恋愛は、スピード感があり刺激的ですが、どこかで疲れが生じやすくなります。一方「臨」に之くことで、関係は「勝ち負け」や「主導権」から離れ、安心して続けられる関係性へと変化していきます。

パートナーシップにおいて重要なのは、自分がどれだけ魅力的かを証明することではありません。むしろ「この人のそばでは自然体でいられる」、「意見が違っても話し合える」と感じてもらえるかどうかが、関係の深さを決めます。「臨」は、相手をコントロールするのではなく、理解しようとする姿勢が信頼を生むことを教えています。

また、長く続く関係では、役割のバランスも変化していきます。仕事が忙しい時期には自分が引っ張る側になり、相手が支える側になることもあります。逆に、自分が不安定なときには、相手の支えに身を委ねることも必要です。「大壮の臨に之く」は、こうした役割の揺らぎを自然なものとして受け入れる柔軟さを示しています。

恋愛でつまずきやすい人ほど「強くあらねばならない」、「自立していなければならない」と自分に言い聞かせがちです。しかし「臨」の視点に立つと、信頼とは、弱さを見せられる関係の中で育つことが見えてきます。それは依存とは違い、互いに尊重し合う成熟した関係性です。

この卦が恋愛で伝えている本質は、勢いのある時期ほど、相手の存在を丁寧に扱うことの大切さです。自分の人生を力強く進めながらも、誰かと並んで歩く余地を残す。その姿勢が、恋愛を一時的な高揚感ではなく、人生を支えるパートナーシップへと育てていきます。

資産形成・投資戦略

「大壮の臨に之く」が資産形成や投資の分野で示しているのは、調子が良いときほど、視野を広く保ち、足元を丁寧に確認することの重要性です。この卦は、資産運用において最も判断を誤りやすいタイミングを、非常に的確に言い表しています。

投資やお金の管理に取り組み始め、一定の成果が見え始めると、人は自然と自信を持ちます。積立が順調に進み、評価額が増え「自分なりのやり方が分かってきた」と感じる時期。それが「大壮」の状態です。この段階では、行動すること自体が楽しくなり、多少のリスクにも前向きになりやすくなります。

しかし、この「うまくいっている感覚」こそが、判断を曇らせる要因にもなります。ある女性は、長期投資をコツコツ続けて成果を出していました。知識も経験も増え、周囲から相談を受けることも増えました。そんなとき、より高いリターンを狙える話に惹かれ、大きな金額を一度に動かそうと考えたのです。冷静に見ればリスクが高い選択でしたが「今の自分なら見極められる」という感覚が背中を押していました。

ここで必要になるのが「臨」の視点です。「臨」は、勢いに乗っているときほど、市場や環境を一段引いた位置から観察する姿勢を求めます。「今は自分が強気になりすぎていないか」、「この判断は、長期的な生活の安心につながるか」という問いを自分に投げかけることが、極めて重要になります。

資産形成において本当に大切なのは、勝ち続けることではありません。生活や人生設計に合わせて、安定した状態を維持できるかどうかです。「臨」に之くことで、投資の軸は「増やすこと」から「守りながら育てること」へと自然に移行します。

たとえば、評価額が伸びているときにこそ、資産配分を見直したり、リスクの高い部分を少し抑えたりする判断が生きてきます。これは消極的な選択ではなく、自分の資産全体を俯瞰できているからこそ取れる行動です。「臨」の姿勢を持つ人は、短期的な値動きに一喜一憂することが減り、数字の裏にある意味を冷静に読み取れるようになります。

また、投資の判断には感情が大きく影響します。「大壮」のエネルギーが強いと「もっと増やしたい」、「この流れを逃したくない」という気持ちが前面に出やすくなります。しかし「臨」に之くことで「この選択は、今の自分の生活リズムや将来像に合っているか」という視点が戻ってきます。

資産形成を長く続けている人ほど、派手な成功体験よりも、大きな失敗を避けてきた経験を大切にしています。「臨」はまさに、そのための姿勢を示しています。市場を支配しようとするのではなく、市場の流れを観察し、自分が無理なく付き合える距離を保つこと。それが結果的に、資産を守り育てる力になります。

さらにこの卦は、お金との関係性そのものにも示唆を与えています。お金を「勝ち負けの道具」として扱うと、判断は極端になりやすくなります。一方「臨」の視点に立つと、お金は人生を安定させるための環境要素の一つとして捉え直されます。その結果、投資判断も、より生活に根ざした現実的なものになっていきます。

「大壮の臨に之く」は、資産形成において最も重要なタイミングは、迷っているときではなく、うまくいっているときだと教えています。そのときに一歩引いて観ることができる人ほど、結果として長く安定した成果を手に入れていきます。

ワークライフバランスとメンタルマネジメント

「大壮の臨に之く」がワークライフバランスやメンタルマネジメントの領域で示しているのは、エネルギーが高いときほど、消耗に気づきにくくなるという人間の特性です。この卦は「頑張れている状態」そのものが、必ずしも健全とは限らないことを、非常に現実的な視点から教えてくれます。

仕事が充実し、やるべきことが明確で、成果も出ている時期。この段階では、多少無理をしても動けてしまいます。睡眠時間が短くても集中でき、多少のストレスも「今は仕方ない」と受け流せる。まさに「大壮」の状態です。周囲からは「頼りになる」、「エネルギッシュだ」と評価され、自分自身も「まだいける」と感じやすくなります。

しかし、このフェーズで見落とされがちなのが、疲労や違和感が静かに蓄積している可能性です。ある女性は、責任あるポジションを任され、仕事の裁量も増え、忙しさの中にやりがいを感じていました。オンとオフの切り替えはできているつもりで、多少の疲れは成長の証だと捉えていたのです。ところが、ある日ふとしたことで集中力が切れたり、理由もなく気持ちが沈んだりする瞬間が増えていきました。

ここで必要になるのが「臨」の視点です。「臨」は、前に進むのを止める卦ではありません。むしろ「今の自分の状態を観察するために、立ち位置を少し調整する」ことを促します。つまり、走り続けること自体を否定するのではなく、自分の心身に近づいて様子を見る姿勢です。

ワークライフバランスを考えるうえで重要なのは、時間配分の問題だけではありません。「臨」の智慧は「自分が何に反応し、何に疲れているのか」を知ることが、最優先だと教えています。忙しさの正体が仕事量なのか、人間関係なのか、期待に応え続けるプレッシャーなのか。それを見極めることで、対処の仕方は大きく変わります。

たとえば、仕事そのものは好きなのに、常に“強い自分”でいなければならない状況が続くと、心は少しずつ硬くなっていきます。「臨」に之くことで「今日は無理に前に出なくてもいい」、「少し任せても大丈夫」という選択肢が生まれます。これは後退ではなく、エネルギーを回復させるための前向きな調整です。

また、プライベートにおいても同様です。仕事が好調なときほど、趣味や休息を後回しにしがちですが「臨」は「生活全体を観る視点」を取り戻させてくれます。自分が安心できる時間、人と比べずにいられる場所、評価されなくても価値を感じられる活動。こうした要素が、メンタルの安定を静かに支えています。

「大壮の臨に之く」は、強くあることと、無理をし続けることを同一視しないための卦でもあります。本当に持続可能な働き方とは、常に全力でいることではなく、力の出し入れを自分で選べる状態です。

メンタルマネジメントにおいても、この卦は重要な示唆を与えます。感情が揺れたときに、それを否定したり抑え込んだりするのではなく「何が起きているのか」を観察する姿勢が、回復への近道になります。「臨」は、自分の感情に近づき、名前を与え、理解しようとすることで、過度なストレスが和らいでいくことを示しています。

結果として「臨」の姿勢を取り入れた人ほど、燃え尽きにくく、長く安定したパフォーマンスを保てるようになります。それは怠けることでも、妥協することでもありません。自分の人生全体をマネジメントする力を育てている状態です。


象意と本質的なメッセージ

「大壮の臨に之く」が描いている象意は、一言で言えば “力が成熟へ向かう過程” です。ここでいう力とは、筋力や権限といった分かりやすいものだけではありません。経験によって培われた判断力、言葉の重み、影響力、そして「自分はやれる」という内側の確信も含まれています。

「大壮」は、そうした力が十分に蓄えられ、前へ進む勢いが最高潮にある状態を表します。一方で「臨」は、前に立ち続けることよりも、状況に近づいて観ることを象徴しています。つまりこの卦の流れは「力を振るう段階」から「力をどう扱うかが問われる段階」への移行を示しているのです。

現代のビジネスパーソン、とくに女性がキャリアを積み重ねていく中では、この転換点に何度も直面します。成果を出すことで発言力が増し、責任ある立場に立つほど、周囲との関係性や影響の及ぼし方が変化していきます。このとき、勢いのまま進み続けることもできますが「臨」はあえて「立ち止まって近づく」姿勢を選ぶよう促します。

象意としての「臨」は「上から見下ろす」のではなく「同じ場所に立って感じ取る」ことを重視します。それは弱さではなく、状況を立体的に捉えるための高度な判断力です。力があるからこそ、相手の声に耳を傾け、環境の変化を読み取り、無理のない形で前進できるのです。

この卦が示す本質的なメッセージは「強さは誇示するものではなく、信頼に変換されてこそ意味を持つ」という点にあります。押し切る力は短期的な成果を生みやすい一方で、信頼を育てる力は時間とともに効いてきます。「臨」に之くことで「大壮」のエネルギーは粗さを失い、安定感を伴った影響力へと変わっていきます。

また、この象意は人生全体にも当てはまります。若さや勢いだけで進んでいた時期から、経験を活かしながら人や環境と調和していく段階へ。そこでは「勝つこと」よりも「続けること」、「目立つこと」よりも「信頼されること」が、より大きな価値を持ち始めます。

「大壮の臨に之く」は、成長が止まることを示しているのではありません。むしろ、成長の質が変わるタイミングを示しています。力を持った自分が、どんな距離感で世界と関わるのか。その選択が、これからの人生の安定感を左右していきます。


今日の行動ヒント:すぐに実践できる5つのアクション

  1. 今日の判断を一度「誰の視点で見ているか」書き出してみる
    自分の立場だけでなく、相手や周囲の視点を意識することで、決断の精度が上がります。
  2. 仕事や人間関係で一人に「どう感じているか」を聞いてみる
    アドバイスではなく感想を聞くことで「臨」の姿勢で状況を観察できます。
  3. 調子が良い分野ほど、あえてペースを落とす選択をする
    無理に加速しないことで、長期的な安定につながります。
  4. 自分が頑張りすぎているサインを一つ決めておく
    睡眠、食事、感情の変化など、早めに気づく指標を持つことで消耗を防げます。
  5. 今日の終わりに「観察したこと」を一つ振り返る時間を持つ
    成果ではなく気づきを言葉にすることで、判断力が静かに育っていきます。

まとめ

「大壮の臨に之く」は、力が十分に備わった人にこそ向けられた、極めて現実的なメッセージを含んだ卦です。それは「もっと頑張れ」という激励ではなく、すでに持っている力を、どう使えば人生が安定し、信頼が深まるのかを静かに問いかけてきます。

仕事やキャリアの面では、成果が出始めたときほど、判断の影響範囲が広がります。強く決断すること自体は必要ですが、その力を押し出すだけでは、人はついてきません。相手の状況に近づき、声にならない不安や違和感を感じ取ろうとする姿勢が、結果としてチームや組織を長く支える力になります。この卦は、リーダーシップとは「前に立ち続けること」ではなく「状況の中に身を置き、観ながら導くこと」だと教えています。

恋愛やパートナーシップにおいても同様です。自立し、自分の軸を持つことは大切ですが、強さだけでは関係は深まりません。相手に近づき、気持ちを理解しようとする余白を残すことで、安心と信頼が育っていきます。この卦が示すのは、主導権を握ることよりも、並んで歩ける関係性を選ぶ成熟です。

資産形成や投資の分野では、うまくいっているときほど慎重さが求められます。評価が伸びている時期は判断が大胆になりやすいものですが「臨」の視点を持つことで、一歩引いて全体を見渡す冷静さが戻ってきます。増やすことよりも、生活と人生を安定させることを優先する姿勢が、結果として長期的な成果につながります。

また、ワークライフバランスやメンタルマネジメントの面では「頑張れている状態」が続くことの危うさを示しています。動けているからこそ、自分の疲れに気づきにくい。だからこそ、立ち止まって自分に近づき、今の状態を観察する時間が必要になります。それは怠けることではなく、力を長く使い続けるための調整です。

「大壮の臨に之く」が示す成功とは、勢いで突き抜けることではありません。仕事・お金・恋愛・人間関係・心の状態が無理なく噛み合い、自分らしく続いていくこと。そのために、強さと同時に、観る力と近づく姿勢を育てることが大切だと、この卦は教えています。

今の自分に力があると感じている人ほど、この智慧は役に立ちます。その力をどう扱うかを少し意識するだけで、人生の安定感と満足度は、静かに、しかし確実に高まっていくでしょう。

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