「大有(だいゆう)の睽(けい)に之く」が示す現代の知恵
「大有」は“豊かさ”と“影響力”の象徴です。これは、物質的にも精神的にも、恵まれたリソースを持つ状態を意味しています。しかし、それが「睽」――すなわち“意見の違い”や“方向性のズレ”に変化していくという流れは、一見ネガティブに見えるかもしれません。
けれども、現代のビジネスパーソンにとってこの変化は、重要な気づきをもたらします。たとえば、リーダーとして一時的に成功を収めた後、メンバーとの間に微妙な価値観のズレが生まれたり。あるいは、恋愛やパートナーシップにおいて、相手と異なる生き方をどう尊重するかが課題となったり。投資の世界でも、自分の勝ちパターンが通用しなくなる局面に直面することがあります。
この卦が教えてくれるのは“違い”こそが成長の起点になるということです。自分の持つものに執着するのではなく、異なる意見や価値観、やり方を「資源」として見ることで、より深い豊かさへとつながるのです。
「大有の睽に之く」は、持っているものをどう活かし、違いをどう受け入れていくか。その戦略的かつ感情的なバランスを学ぶ卦です。今、あなたが変化の中にいるなら、この卦のメッセージはきっと現実に役立つはずです。
キーワード解説
多様性 ― 違いの中に最大のリソースがある
意見の相違、価値観の違い、世代間ギャップ――それらは一見「摩擦」ですが、実は「資源」でもあります。特に職場や恋愛関係において、自分と異なる視点を持つ相手こそが、新しい可能性を運んできます。「睽」は対立ではなく、多様性をどう使いこなすかの試練なのです。
統合 ― “一人”の力から“チーム”の力へ
「大有」は個人の力が最大限に発揮されている状態。けれども、そのままでは持続しません。「睽」への変化は、リーダーがチームや周囲と調和しながら進む必要性を示します。意見の違いを繋ぎ直し、再統合する力こそ、今後のリーダーに求められる力です。
変化対応 ― 成功の次にくる「ズレ」を察知
成功の後には、必ず変化が訪れます。そのとき、自分のスタイルや価値観を一度「疑ってみる」ことができるかが分岐点になります。「睽」は違和感のシグナル。今までのやり方が通じないサインとして、この卦は警鐘を鳴らしてくれます。
人生への応用
意思決定とリーダーシップ
「大有の睽に之く」は、リーダーシップにおける本質的な“試練”と“再構築”の過程を示しています。
「大有」は、自他ともに認める影響力のある存在、つまり“実績あるリーダー”を象徴します。あなたには、これまで培ってきた信用、実績、知見があり、それによって多くの人がついてくるフェーズにいるかもしれません。けれども、その状態が長く続くほど、知らず知らずのうちに「自分のやり方こそが最善である」と信じ込んでしまい、周囲との微細なズレに気づきにくくなります。これがまさに「睽」の始まりです。
この“ズレ”は最初、違和感や沈黙として現れます。部下の反応が鈍くなった。会議で意見が出なくなった。かつての活気がなくなった。あるいは、優秀なメンバーが突然退職する。そういった変化が訪れたとき、多くのリーダーは「なぜだろう」と原因を外に探します。しかし「睽」は、そうした外部の変化を“自分自身へのフィードバック”として受け取る必要があると教えています。
たとえば、あるマーケティング部門の女性マネージャーは、かつては“ブレない”リーダーとして社内で評価されていました。戦略に一貫性があり、業績にも結果がついてくる。部下も最初は彼女の明快さに安心していました。しかしあるときから「指示が一方的すぎる」、「自分の意見が通らない」と感じる若手が増え、チームの雰囲気はぎくしゃくし始めます。会議では発言が減り、Slackでの反応も鈍くなる。マネージャーは混乱しながらも、自分のリーダーシップが変化の局面にあることに気づきました。
彼女はまず、メンバーと1対1での対話を重ねました。すると、部下たちは「否定されたくない」、「無駄だと思われそう」と感じて発言を控えていたことが分かります。彼女はそれまでの“強く導く”リーダー像を一度手放し「聴く力」、「余白をつくる力」へと軸を移していきました。その結果、チームには再び創造性が戻り、自走する力が育まれていきました。
ここで重要なのは、リーダーシップとは“自分らしさ”を押し通すことではなく“周囲との関係性に応じて変化していく力”であるという点です。「睽」は意見の不一致を表しますが、それは“対立”ではなく“補完”のチャンスです。リーダーが変われば、チーム全体が変わります。そしてそれは、決して弱さや迎合ではなく“進化”なのです。
また「大有の睽に之く」は、意思決定における“バイアス”に気づく視点も与えてくれます。自分が得意とする手法、自分が信頼するデータ、自分が好む言い回し――これらが知らぬ間に「正解」となり、それ以外の選択肢を切り捨ててしまっていることは多々あります。多様性の時代においては、その“自分の枠”を自覚し、意図的にそれを崩すことが求められます。
意思決定とは「正しい判断を下すこと」ではなく「今この瞬間に必要な変化を選び取ること」です。たとえ正解がない状況でも、メンバーとの信頼関係と柔軟な視座があれば、結果的に最善の方向へ進むことができます。
この卦がリーダーに与えるメッセージは明快です。あなたの影響力は、過去の実績によって証明された。だが、次のフェーズでは“違いを受け入れ、編み直す力”が問われる。それは一見、遠回りに見えるかもしれません。けれどもそのプロセスこそが“持続可能な影響力”を育てる道なのです。
キャリアアップ・転職・独立
「大有の睽に之く」は、キャリアにおける“手応え”と“違和感”が同時に存在する時期を表します。これまでの努力が実を結び、社会的にも経済的にも成果を感じられる状態。昇進や成果報酬、表彰、周囲からの信頼――それらは「大有」の証です。けれども、その一方で「このままで本当にいいのか?」、「どこか違う自分がいる気がする」という微細なズレが心の奥に生まれてくる。これが「睽」の兆しです。
多くの人がキャリアの途上でぶつかるのは“成長実感があるのに、満たされない”という矛盾です。これは決してわがままでも贅沢でもありません。人は一定の成果を得ると「次はどう進むべきか」という問いに直面するからです。
たとえば、30代後半のある女性は、営業職として高い成績を収め、社内でも“エース”と呼ばれていました。クライアントからの信頼も厚く、年収も業界平均を超えていました。にもかかわらず、彼女はどこかで「何かが違う」と感じ始めます。週末に会う友人たちが、新しいスキルを学んでいたり、ライフスタイルを大きく変えていたりするのを見て「私はこのまま“評価される道”だけを歩いていいのだろうか?」という問いが浮かんだのです。
ここに「睽」の象意があります。現在の道が「間違っている」のではなく「次の問い」が立ち上がってきている――それがこの卦の本質的なメッセージです。
キャリアアップの選択をする際、多くの人は「今の延長線上でどう成長するか」に注目します。つまり、今の職場でどう昇進するか、給与を上げるか、評価されるか。もちろんそれも大切な視点です。ただ「睽」は、そこに“視点のズレ”を加えます。「あなたが進んできた道と、これからのあなたが望む道は、本当に一致しているか?」と問いかけてくるのです。
特に転職や独立といった、大きな変化の選択肢に直面しているとき、この卦のメッセージは極めて現実的に響きます。
“やりがいはあるが、自分の価値観とはズレてきた会社”に居続けるべきか?
“安定しているけど、成長実感がない仕事”を続けるべきか?
そんなモヤモヤを抱えるあなたにとって「睽」は、“違和感は成長の芽”であると伝えてくれるのです。
そして「大有」は、同時に“今のあなたには、それを選ぶだけのリソースがすでにある”ということも表します。これはとても心強いメッセージです。現状を見直す力、新たな分野に挑戦する力、ゼロからやり直す勇気――それらはすでにあなたの中に備わっているということ。
たとえば、キャリアの分岐点で「副業を始める」という小さな選択もまた「大有の睽に之く」の流れに乗った動きです。現職をすぐに辞めるのではなく、自分の可能性を“並行して試す”ことで、ズレの正体がより明確になります。コーチング、Webライティング、講師業、デザイン、動画編集など、現代には多様なスキルと働き方の入り口があります。違和感を感じたときは「捨てるか残るか」の二択ではなく「試してみる」という第三の道が、次のキャリアの扉を開いてくれます。
また、リスキリング(再学習)や資格取得など、学び直しのフェーズに入ることも「睽」の知恵を活かす選択です。価値観の変化や時代の転換点を“不安”ではなく“学び直しのチャンス”として受け止める姿勢が、柔軟なキャリア形成につながります。
重要なのは「違い」や「ズレ」を“否定”ではなく“兆し”として受け止めることです。そして、違和感を無視せず、勇気を持って小さな一歩を踏み出すこと。変化の中にこそ、あなただけの新しいフィールドが用意されています。
「大有の睽に之く」は、今のあなたにこう語りかけているのかもしれません。
「あなたはすでに十分に力を持っている。だからこそ、その力を“次の文脈”で活かすべきときが来ているのです」――と。
恋愛・パートナーシップ
「大有の睽に之く」は、恋愛やパートナーシップの在り方を見つめ直すタイミングを示す卦です。
「大有」が表すのは、愛情の豊かさ、関係性の充実、あるいは理想のパートナーとの出会いや、長年の努力が報われた愛の成熟期。しかし、その次に訪れる「睽」は、まさに“違い”や“すれ違い”の象徴。大切に育んできた関係に亀裂が入るのではないか?という不安すら呼び起こすような変化の兆しです。けれどもこの「睽」という変化は、破綻を意味するわけではありません。それは、相手との関係性が深まるために必要な「再調整のフェーズ」を意味しています。
たとえば、交際が順調に進み、価値観も似ていると思っていた相手が、あるときからまったく異なる考え方を見せ始める。仕事に対する姿勢、お金の使い方、休日の過ごし方、家族との関係性――一緒に過ごす時間が長くなるほど、こうした違いが徐々に表面化してきます。それは自然なことです。
このとき「あれ、こんなはずじゃなかったのに」と違和感を否定してしまうと、関係は硬直します。そして、多くの場合、「以前のように戻そう」と努力してしまいがちですが「睽」のメッセージは明確です。“違い”は解決するものではなく、受け入れて育てるものなのです。
ある女性の例をご紹介しましょう。彼女は30代で理想のパートナーと出会い、趣味や会話のテンポも合い、まるで運命のように感じたといいます。けれども、付き合い始めて1年が経つ頃から、仕事への向き合い方に明確な差が出てきました。彼女はキャリア志向で未来に向けた投資を大切にするタイプ。相手は現状維持派で「今がよければいい」という価値観を持っていたのです。最初は衝突もありましたが、あるとき彼女は思ったそうです。「これはどちらが正しいということではなく、見ている世界が違うだけだ」と。
そこから関係の向き合い方が変わりました。お互いの違いを「矯正する」のではなく「尊重する」関係へと変えていったのです。結果、彼女は自分のキャリアを大切にしながら、相手に自分の夢を押し付けることもなくなり、相手もまた、彼女の努力を心から応援できるようになりました。
「睽」は“異なるまま、共にいること”の難しさと可能性を教えてくれます。恋愛は、最初のときめきや共通点だけで続くものではありません。むしろ「違いが明らかになってからが本当の始まり」と言ってもいいでしょう。その違いに向き合わずにいると、関係はいつか薄まり、やがて崩れてしまいます。ですが、違いを理解し合い、それでも一緒にいたいと思える関係こそが、真に成熟したパートナーシップなのです。
また、出会いを求めている方にとっても「大有の睽に之く」は重要な気づきを与えてくれます。理想の相手像を強く持ちすぎると「違い」を許容する余地がなくなります。「こんな人じゃないと意味がない」、「共感してくれないと疲れる」など、条件を絞り込むことで、かえって本当に心を許し合える相手との接点を失ってしまうこともあります。
この卦が伝えるのは「本当の相性とは、“違い”を楽しめる関係性にある」ということです。あなたとまったく同じ考え方をする人はいません。それでも、お互いを面白がり、補い合える――そんな関係が、人生を何倍も豊かにしてくれます。
もし今あなたが、恋人や配偶者との関係に疑問を抱えているなら、それは終わりの兆しではなく“次の段階へ進むための問い”かもしれません。そしてもしあなたが新たな出会いを求めているのなら「共通点」よりも「補い合える違い」に目を向けてみてください。
「大有の睽に之く」が恋愛において教えてくれること――それは、違いを避けず、違いの中に愛を見つけること。その視点を持つことで、あなたの恋愛やパートナーシップは、表面的な調和を超えた、本質的なつながりへと変わっていくはずです。
資産形成・投資戦略
「大有の睽に之く」が示す資産形成・投資戦略のメッセージはとても現実的かつ深いものです。それは「豊かさを得たあとに訪れるズレや変化に、どう柔軟に対応していくか」という問いです。単に“これから資産を築こう”という段階ではなく“すでにある程度の成果や知識を持っている人が、次に進むための判断力”が試される時期だといえるでしょう。
まず「大有」は、リソースが十分にある状態を示します。ある程度の収入や貯蓄があり、投資や副業に取り組む余裕もある。あるいは過去の投資が実を結び、資産形成の手応えを感じている。けれども「睽」が示すように、その状況において“微細なズレ”や“これまでのやり方が通用しなくなる変化”が忍び寄ってきているのです。
たとえば、株式投資で成果を出していたある女性は、テクノロジー関連株に集中して投資してきたことで資産を大きく増やしました。彼女はその投資スタイルに自信を持ち、情報収集やタイミングの見極めも洗練されていました。しかし、ある年、急なインフレや金利上昇、地政学的リスクなどが重なり、かつての「勝ちパターン」が通用しなくなります。最初は“想定内”と思っていた損失が続き「なぜか噛み合わない」という感覚に陥りました。これはまさに「睽」の状態です。過去の成功体験が現在の環境と“ズレてくる”のです。多くの人は、この局面で「いや、もう少し待てば元に戻るはずだ」と過去のロジックに固執します。ですが「大有の睽に之く」は、そこでいったん立ち止まり「その豊かさをどう再構築するか」、「新しい環境で何を選び直すべきか」と問いかけてきます。
この卦が示す投資の智慧は“柔軟な自己点検”です。今の市場環境において、自分のポートフォリオが偏りすぎていないか?情報源は複数あるか?自分の判断基準が古くなっていないか?と、自分の投資行動を客観的に見直す力が求められます。また「睽」は、異なるものを組み合わせる知恵を表します。これは、資産を分散し、リスクを分散するという考えにもつながります。たとえば、株式と債券、不動産、金、外貨、iDeCoやNISAの活用など、異なる特性を持つ金融商品を組み合わせて資産を守りながら育てていく戦略が求められるのです。
さらに、この卦は「価値観のズレ」にも焦点を当てます。あなたが今大切にしているお金の使い方や貯め方は、果たして本当に“今のあなた”に合っているでしょうか?20代で重要だった「とにかく貯める」スタイルが、30代以降も通用するとは限りません。家族構成、健康、仕事環境、人生の優先順位が変わる中で、資産形成の目的もまた変化していくものです。
ある女性は、長年「老後に備えて」ひたすら貯金に励んでいました。無駄遣いはせず、固定費を下げ、節約が日常になっていました。けれどもある日、友人の突然の病気や親の介護問題をきっかけに「人生は“使うタイミング”も重要なのだ」と気づきます。そこからは“貯めるための資産形成”から“人生を生きるための資産戦略”へと考え方を大きく転換。心から行きたい場所に旅をし、信頼できる人のビジネスに応援投資をするなど“意味ある使い方”を意識し始めました。
このように「大有の睽に之く」は、あなたの資産が“生きたお金”になっているかどうかを問いかけます。数字の増減だけで一喜一憂するのではなく、そのお金が、あなたの生き方と一致しているかどうか。それを再確認することが、より持続可能で豊かな人生につながるのです。
最後に、この卦は「見直し」、「再編成」のタイミングを示唆しています。資産状況を可視化する。無意識の支出を洗い出す。不要な保険を整理する。放置していた投資口座を点検する。そんな小さなアクションが、次の一歩を明確にしてくれます。
「違和感は“ズレ”ではなく、“見直しのチャンス”である。それを恐れず、柔軟に受け入れた人だけが、本当の意味での“持続する豊かさ”に到達できるのです。
ワークライフバランスとメンタルマネジメント
「大有の睽に之く」は、心と身体、仕事と私生活、成果と休息――それらの“バランスの再調整”を促すメッセージを内包しています。特に現代のビジネスパーソン、とりわけ責任ある立場で成果を上げている女性にとって、この卦は深く響くテーマを投げかけてきます。
「大有」は、社会的な充足や実力の蓄積を意味します。仕事で認められ、スキルも身につき、キャリアの手応えを確かに感じられる時期。昇進・昇給・役職・プロジェクト成功など、他者からの評価や経済的豊かさも得ている可能性が高いでしょう。しかし、その「豊かさ」が続くにつれ、ある種の“無理”や“無自覚な負荷”が自分の中に積もっていくことがあります。
朝から晩までスケジュールが詰まり、常に誰かの期待に応え続ける日々。休みの日も頭は仕事から離れられず、気づけば呼吸が浅くなり、寝ても疲れが取れない。周囲からは「バリバリ仕事してる」、「すごいね」と賞賛されるけれど、ふとした瞬間に「私、いつからこんなに頑張り続けてるんだろう…」と心がささやく。それが「睽」の兆しです。「睽」はズレを意味しますが、ここでは“外から見える自分”と“内側にある本音”とのギャップが表面化してくるのです。
ある女性管理職は、産休後に復職し、以前と変わらぬパフォーマンスで働き続けていました。子育てと両立しながら周囲の信頼にも応え「大有」そのもののような日々でした。けれども、ある日突然、会議中に思考が止まり、涙がこぼれるという出来事が起こります。自分でも「なぜ?」と混乱した彼女は、心療内科を訪れ、初めて“過剰適応”と診断されました。彼女はこう振り返ります。「私は、“ちゃんとやらなきゃ”という自分と、“もう少し休みたい”という自分の声の間で、ずっと板挟みになっていたんです」
これは、まさに「大有の睽に之く」です。成果や豊かさを手にしても、それが“自分の本音”と噛み合っていなければ、心と身体はやがて悲鳴をあげます。この卦は、そうなる前に“違和感”を察知し、バランスを見直すことの重要性を教えてくれています。
現代において、ワークライフバランスは“時間の割り振り”ではなく“自分自身との一致”の問題です。どれだけ忙しくても、自分らしくいられる人は疲れにくい。逆に、時間に余裕があっても、“やらされ感”がある人は疲弊します。つまり「自分は本当に何を大切にしたいのか」、「今の自分にとって、何が心地いいのか」を問い続けることこそが、バランスの本質なのです。
また「睽」は、“異なる要素の共存”を意味します。仕事と家庭、成功と休息、自分と他者――これらは常に“同じ方向”ではなくていい、というのがこの卦の重要な示唆です。たとえば、仕事では論理性を求められ、家庭では感情的なつながりが必要になる。どちらも大切ですが、それぞれに異なるリズムと自分が必要になります。このように“全てを完璧に調和させる”のではなく“違うまま並行させる”バランス感覚こそが、現代のメンタルマネジメントの鍵となります。
では、実際にどのような行動をとればよいのでしょうか?
まず第一に「不調の兆し」に気づく感度を上げることです。疲れていないと思っていても、言葉が荒くなったり、何もしていないのに涙が出たり、夜中に目が覚めたり――そんな“小さなサイン”を見逃さないこと。これこそが「睽」の察知力です。
第二に、意図的に“ズレ”を作ることも効果的です。いつもと違うカフェで仕事をしてみる、予定を1日だけキャンセルして「何もしない時間」を作る。意識的な“外し”を日常に取り入れることで、緊張していた心が緩み「本当の自分」にアクセスしやすくなります。
第三に、メンタルを整えるためには、身体からのアプローチも非常に有効です。呼吸を深くする、10分間のストレッチを毎朝取り入れる、ぬるめの湯船に10分浸かる――シンプルなルーティンが、心を整える強力な土台になります。
そして最後に「今の自分が求めている“豊かさ”とは何か?」を定期的に問い直すことです。10年前は昇進がゴールだった。5年前は年収アップがモチベーションだった。今は、心地よい人間関係と穏やかな朝の時間こそが何よりの豊かさかもしれない。価値観は変わります。それに応じて、働き方や生活リズムも変えていいのです。
「大有の睽に之く」は、あなたが“頑張りすぎた自分”から“調和した自分”へと進化するための羅針盤です。成果を出すことだけが人生の成功ではありません。“自分と一致している感覚”が、最も確かな豊かさであり、何よりの回復力”です。
象意と本質的なメッセージ
「大有」は、豊かさの象徴です。努力が実を結び、物質的・精神的なリソースに恵まれた状態。仕事では成果や昇進を、人生では満足感や信頼を得ているフェーズと言えるでしょう。しかしその「大いに有る」状態は、意外にも“次の課題”の入口でもあります。
というのも「大有」は孤立を伴いやすいからです。富や成功を手にした人は、その分だけ周囲と距離が生まれやすい。人は往々にして、成功者を妬み、警戒し、ときに敬遠します。自分でも、無意識のうちに「私はもうできる」と思ってしまい、耳を傾ける柔軟性を失うことがあります。ここに「睽」がやってきます。
「睽」は意見の食い違いや、心のすれ違いを示します。一見ネガティブなイメージですが、易経における「違い」は、成長へのチャンスでもあります。この卦が教えているのは「同じであること」に執着せず「違いを前提としてつながる力」が必要だということです。
リーダーとしての視点で言えば「自分の正しさ」だけで全体を動かそうとするのではなく、多様な意見の中から共通点や接点を見出す力が問われます。また、人生のパートナーとの関係性においても、意見が違うことを否定するのではなく、そこにある“意義”や“個性”をどう尊重するかが、関係の成熟を左右します。
象徴的にいえば「大有」は個の確立。「睽」は他者との対話。そしてこのふたつがセットになったとき、本当の意味で“豊かさを人と分かち合うフェーズ”に入るのです。
この卦が現れたとき、今の自分にとって「手放すべき成功イメージ」、「聞くべき異なる声」、「再接続すべき関係性」がどこにあるのか――その問いに真摯に向き合うタイミングが来ているのかもしれません。
今日の行動ヒント:すぐに実践できる5つのアクション
- 普段とは異なる価値観を持つ相手に「本音」を聞いてみる
仕事仲間でもプライベートでも「ちょっと違うな」と感じる人に対して、あえてオープンに意見を聞いてみましょう。違いを知ることで、自分の価値観がどう形成されているのか、どこに偏りがあるのかを客観的に見つめることができます。それは未来の意思決定に深みを与えるヒントになります。 - 「これは私らしくない」と思う行動を1つあえてやってみる
違和感や抵抗感は、変化の入り口です。たとえば、いつも避けていたタイプのイベントに参加してみる、普段使わない色の服を着てみる、声をかけたことがない同僚に話しかけてみる。ほんの小さな行動の“ズレ”が、あなたの世界観を広げてくれます。 - この1週間で「ズレを感じた瞬間」をメモに書き出す
会話で感じた違和感、価値観の違い、なぜかしっくりこなかった出来事……それらを放置せず、書き留めてみましょう。それらは単なるノイズではなく「睽」のサインであり、次のステージに進むための問いかけです。書き出すことで、あなたの内面が整理され、次のアクションが明確になります。 - 自分の「豊かさ」の定義を3つ書き直す
あなたにとって「大有」とは何でしょう?年収?自由?人間関係?過去に手にした豊かさと、今求めているものが違っているなら、それは“変化のタイミング”です。価値観のアップデートは、人生の再設計にもつながります。まずは紙に書くことから始めましょう。 - 手放すことを1つ決めて、今日から始める
変化には「スペース」が必要です。時間、感情、思考を占めている何かを手放すことで、違う何かが入ってくる準備ができます。たとえば、不要な会議を減らす、合わない人間関係から一歩引く、心が重くなるSNSを見ない。小さな「手放し」が、意外な転機を運んでくることもあります。
まとめ
「大有の睽に之く」が私たちに教えてくれるのは、成功や豊かさの“先”にある、新たな挑戦と成熟です。人生やキャリアにおいて、一定の成果を出すことは確かに価値があります。けれども、その状態が「永遠に続く」わけではなく、むしろそこからが真の勝負の始まりであることを、この卦は静かに語っています。
今あなたが感じている「違和感」や「ズレ」は、失敗や後退ではありません。それは“次の可能性”が始まっているサインです。人との違い、自分とのギャップ、予想外の反応……すべてを「活かす」視点で見つめれば、それはあなた自身の成長資源となります。
キャリアでは、リーダーシップのスタイルを再定義し、より多様な声に耳を傾けることが求められるでしょう。恋愛やパートナーシップでは、相手と「同じであること」よりも、「違いをどう支え合うか」が愛を深める鍵になります。資産形成においても、成功体験に固執するのではなく、冷静にズレを分析し、戦略をアップデートする姿勢が重要です。そして、心と身体、働くことと生きることのバランスを保つには、自分自身の“感度”を鈍らせないメンタルマネジメントが欠かせません。
あなたはすでに、何かを「大いに有する」状態にあるのかもしれません。だからこそ、次に進むためには「違い」とどう向き合うかが問われるのです。
この卦のメッセージを胸に、自分らしく変化を選び、自分らしい豊かさを築いてください。答えは、常にあなた自身の中にあります。